はじめに


        新 井 雅 之

 この度、中尾照代先生の詩集『時』が上梓されると知って、私は自分のことのように心から喜んでいます。先生は現在、カリフォルニア州のキャンベル市にある日系教会で、牧師夫人としてご奉仕されています。

 さて、詩集は二部構成になっていますが、詩作のためのアプローチは、三種類に分類されています。照代先生は純粋なクリスチャンの精神で、包み込むようにして詩を描いているのが特徴です。次に、牧師夫人として、時に優しく、時に鋭い切り込みで表現しています。三番目は、詩人の眼で着目しながら、物事を客観的に捉えていることです。この三位一体が、何と言っても本詩集の魅力であり醍醐味ではないでしょうか。

 例えば、第一部に収録されている「犬」などは、三位一体的手法で書かれた代表的な作品です。この詩の中には、多種多様の感性が閉じ込められています。それは愛であり、思いやりであり、ユーモアや哀しみ、そしてロマン的イロニーなどです。

 私は、詩集『時』が、人々の心に深い感動をもたらしてくれると確信しています。

  二〇〇六年一月
  ウエスト・ロサンゼルスにて


なぞなぞ


世界で一番いいことなーんだ
はーい
愛することでーす

人 生(時)


喜びの時が訪れ
つかの間の滞在をすませて
すばやく去って行く
一つの影を人の心に残して

悲しみの時が訪れ
ぐずぐずと居座った末に
ゆっくりと腰をあげて去って行く
一筋の光を人の心に残して

生きるものに欠かせない
光と影が
思わぬ時に
思わぬ姿で人を訪れ
思わぬものを残して
去って行く

人はそれにふりまわされて
人生を学ぶ


「これから三年・・・」
その長さに嘆息する

「あれから三十年・・・」
その短さに驚嘆する

時という不可思議な
道を見つめて

一 日


何となくしまりのない
無駄な一日を過ごしてしまった
自分の弱さに流されて

でもこの日を踏みつけたり
壊したりはしなかったと思うし
染みだらけにはしなかったから
ましだったかな・・・

日暮れの空よ
頷いてくれますか


深刻な顔をして
一人道を急ぐ犬に出会った
難事にぶつかった時の
人間の顔つきそっくりだった

どうしたの
どこへ行くの
思わず振り返って声をかけたが
犬はどんどん行ってしまった

そうだよなあ
人生にはいろいろあるんだよなぁ

見上げた空の
顔色が少し悪かった

恐 れ


急に空から落ちて来た
瀕死の鳥のように
バサッと音をたてて
大きな木の葉が散った

ビクッと身をすくめて
それを覗きこんだ私の頭の上を
鳥が糞を散らして飛んで行った

あの鳥は
昨夜からの私の恐れに気づいていて
臆病者と嘲笑ったのかもしれない
でもあの鳥は
私の恐れが
愛する者への熱い想いからであることは
知らないのだ

それを知っているのは
昨夜までは騒ぎ回っていたのに
明け方からは
息をひそめて
そっと私の側に来てくれた
この風だけかも知れない

手 紙


いさんで開けたら
その中に
きれいに並んだたくさんの虫がいて
それが次第に
棘のついた棍棒になり
氷石になり
毒針になって
私に飛びかかって来た

その怪物はみるみる巨大化して
私の胸をめった打ちにし
私の頭をズタズタにして
地面にたたきつけた
もう立ち上がれないほどに

親しい者から贈られた
紙切れの中にいた
恐ろしい怪物

失 意


まさか
「豚に真珠?・・・」

悲しい事実の苦さを吐いて
痩せて私は
微かにうめく

「豚よ あげた真珠をみんな返せ」

虚しい怒りを避けたいなら
私はこれから
残ってる真珠を
捨てに行けばいいでしょうか

一緒に


あれやこれやで辛い人
一緒に行ってみません?
あの星空に

星と一緒にキラキラと
ちょっと踊ってみません?

星に頼んできれいな光
少しもらって来ません?

青い空の下で


もう一つまた
人間の本性の醜さを
知る羽目になった
うっかり
心を貸したために

空はあんなに広く
あんなに高く
あんなに美しいのに
その下で
人間の醜さが果てしなく
うごめいている

天は人に
醜くならずに生きるための
十分な恵みを与えているのに
人が
あくなき欲望を離れて
考えれば解る筈なのに
少し慎んでいれば
それが見つけられるのに

人はなぜこうも
醜さを繰り広げてしまうのか
高く澄み切った青い空の下で
その広大な明るさのもとで

自問自答


生きてゆかなくてはならない
どんなに辛くても
生きてゆかなくてはならない

(生きることを
 そんな風に義務として考えるのか?・・・)

しかし時に人は
義務に身を委ねることで
何とか耐えてゆけることも
あるようだ

それをまとって
暴風に耐える他にない時も

反 射


その人に
その場所に近づくと
急に体がこわばって
心の重心を失ってしまう

ある記憶に呼び戻されると
顔の皮も目の中も
ヒリヒリして来る

そんな痛さを辺りに隠そうとして
あえて冷淡に
神経の図太い者のように
振舞ってみる
密かに震え
密かにうつむいて

急いで一人になり
青い空の下で
自分の愚に苦笑し嘆息する
そうしてしばらく涙を流す

広く美しい天に
ゆるしを願って

ささの葉


受話器に残った言葉を
耳に刺したままで夜を耐え
何とか迎えた朝の窓辺に
微かに聞こえる小さな歌声
小さく震えてささの葉が
泣き濡れた姿で歌っている

孤独な人の瞬きのような
不器用な人の口元のような
ためらいながらの哀唱歌
私の耳にそっと触れて

足どりの重い朝の扉も
冴えない顔の小風も
涙を浮かべながら
細雨の中に立ち止まって
静かにそれを聞いていた
私の耳にそっと触れて


美しすぎて私を刺す花
優しすぎて私を折る花
静かすぎて私を射る花
豊かすぎて私を見捨てる花
人の世で口を開けすぎて
萎んだ私を

厄 介


いっその事
全部振り捨ててしまえばいいのに
人に対する重い気持ち
心に残しておくので
それに苦しむ
絶え間なく想い悩む

心に残したわずかなものが
次第に膨らんで
心いっぱいになってしまう

ある時


私は今
自分の苦悩を
口に出したいと思う
誰かに話したいと思う

でもそう思った後で
それはやめようと考える

自分の口も
人の耳も十分ではないし
ありきたりの慰めを聞く
虚しさを予測したり
何か別の荷に
触れてしまうように思えたりして

独り言


さまざまな苦悩を掻き集めて
やっと手に入れた粗末な壺を
心の棚の隅にしまってあるんです

何かあって胸が疼くと
取り出して触ってみたくなるんです

 人間は醜い
 人生は悲しい
 私はバカだ

呟きながら
何度もそれをいじったら
壊れてしまった

思い切って捨ててしまいましょうか
棚をすっきりさせましょうか

ないのだけれど


この苦しみに同情してほしいと
願っているわけではないのだけれど
こんな目にあっているのは
誰かのせいだと思っているわけでは
ないのだけれど
悩ます人の不幸を望んでいるわけでは
ないのだけれど

誰かから
相手が悪くてあなたが正しいと
言ってもらいたいと願っているわけでは
ないのだけれど
その逆でもないのだけれど
誰かに
何かを訴えたい気持ちなんです
でも
どうもうまく言えないんです

沈 黙


何か言おうと思うのですが
言葉をつけると
ほんとうのものが
消えてしまうような気がして
口をつぐんでいるのです

一人の人の


一人の人の冷たい言葉で
世界に太陽が無くなり

一人の人のやさしい言葉で
世界中の花が目の前に咲く

たった一人の一つの言葉が
私のすべてになり
世界のすべてになり
生死の鍵さえ持っている

無 力


押し寄せる波を
避けることも
それにうまく乗ることも
できないで
ただ打たれて濡れている

泣くことも騒ぐことも
動くこともできないで
ぼんやりと傷に目をやりながら
寒風にさらされている

「今日は何日だったかしら・・・」
なんてつぶやいている
日頃していることの一つを
している

人間関係


心に無理をしない生きかたが
できなくて
人の中ではできなくて

思いの中ではできるのに
自然の中ではできるのに
人の中ではできなくて

「どうしてか」と
自分の心に質問したら
心が言う
「弱いからですよ
 欠けているからですよ
 人間だからですよ」

正解だが
なんにもならない答・・・

弱 虫


他人の非を
正面から糾弾する
勇気もなく
全面的にゆるす
寛容もなく
口を尖らして
家の中を這いまわる
ぶかっこうな虫が
今日も埃で
腹を拭く

・・・よりも


期待して裏切られたほうが
期待なんかしないで
苦痛を避けるよりも
人として
価値ある生き方ではないかと思う

痛みを避けるために
人としての想いを冷却してしまうよりも
その人生から
熱い想いが無くなるよりも

むちゃな願い


「誰をも傷つけず
誰からも傷つけられないで
生きてゆきたい」

それは無理なようです
むちゃな願いのようです

どんなに気をつけてみても
良いものを大切にしているだけで
価値あるものを輝かそうと励むだけで
その事自体
誰かの傷になったりするような
誰かに傷を受けるような
そんな人の世に生きています


優しい笑顔っていいですね
真すぐな瞳っていいですね
真剣な表情っていいですね

生きてる光が見えます

現 代


動物は動物を超えること等
考えない
自然は自然を超えること等
望まない
(そのままで喜び生きている)

人間は人間を超えようとしているが
その試みが産んだ混乱と
破壊と衰弱を
のり超えることができないでいる
自分の心のトラブルも
足元にあるわずかな問題も
未だにのり超えられないでいる

そこで機械を超えた機械を
作って
解決をはかろうとしているが
その機械は人間を踏み超えて
人間を操作するように
なるのかも知れない

やがて人間は
バラバラに壊されて
しまうのだろうか

知 る


それを知ってしまったことは
知らなかった時には無い
重さを人の心に残す

知るという事の
辛さよ
重さよ
悲しさよ

知性と感情を整理しきれなくなる
人の弱さよ
切なさよ

沈 思


人と人との心が通じない悲しみが
淡雪のように
そっとそっと降りかかる
果てしなく落ちては
心を濡らし
心に沈む

逆 境


貧しさの中でしか味わえない
生命の豊かさがある

痛みの中にしか咲かない
美しい花がある

嵐の中でしか見出せない
光と宝がある

失敗した時にしか知り得ない
物事の本質がある

真 実


真実を追い求め
真実を守ろうとすることは
実に苦しい戦いなんだなぁ・・・
どんな道においても・・・

真実を尊ぶ者が
深く傷つく世は
やはり悲しすぎる・・・

事 実


言葉を駆使して
事実を告げても
幾つもの実例を示しても
人にはうまく通じない

沈黙し
沈黙に耐えていても
やっぱり事実は通じない

多くの人は事の真偽に
無頓着だし
人の世では
事実は利益のようには
大事にされない


心に真実を持たない人に
何を言っても無駄なようです

医者と患者


医者と患者は
一緒に病気と戦うのです
一緒に病気を治すために
努力するのです

医者が強者のように
一方的に命令を下し
患者が弱者として
それに盲従するだけの
そんな関係なら
具合が悪くても
病院には行けなくなります

患者は不安を抱え心が弱っていて
こわごわ病院に行くのですから
医者の顔色や言葉つきが
ひどく気になるんです

患者が医者に求めているのは
良い腕だけではありません
人間の優しさと
患者の気持ちを受けとめてくれる
態度なんです

すぐれた医療は
人の心を排除するものでは
ないと思うのですが・・・


ほんとうの幸福って
何だと思いますか?
答えは出て来ない・・・というのが
ほんとうではないかと思います
おそらく各自の心が計るもの
という他は・・・

笑 顔


笑顔一つで心が通う
言葉はあまり交わさなくても
見知らぬ外国人であっても
互いに交わす笑顔だけで
互いの心が温かくなる

そんなステキなものが
まだアメリカには残っている
かなり僅かになったけれど


ポトポトと
自分のために流す
私の涙は小さな石ころ
足にあたって地に落ちる

ポロポロと
他人のために祈って落とす
友の涙は
大粒の輝く真珠
キラキラと空に舞う

あれは深海から採れた
高価な本物

石ころよ
起き上がって
あの珠の雫を拾いなさい

石ころ


技巧を凝らした虚像と奇像が
氾濫する社会
すべてが見せモノ
すべてが作りモノの
その愚物を華麗に誇示する

目をそらしても無遠慮に
次々と目の前を通っていく

心がしらけ
見えない価値への渇望が湧いてくる
人が疎む不恰好なものへの
恋慕を覚え
ただの石ころとして
自分を離れた場所に
置きたくなる

形などまるで不揃いな
白い雲が自在に浮かぶ
丈も巾も依然のままの
蒼い空だけが見える場所に

心模様


私の胸にいきなり飛んで来た
その矢は
最初に私を驚嘆させ
次に私の胸に住んでいた
平静を刺して殺し
代わりに疑惑と憤怒を
呼びつけた

それらと私はうまくつき合えなかったが
その手を振り払うこともできなくて
行動を共にしてしまった

時が少し経過して
それらがしぶしぶ去って行った後
今度は傷が痛みを訴え始めた
それに同情するように
嘆きが顔を出して
一緒になって無益な事を
ぐずぐず喋っていた

私はそれらを離れたくて
フラフラと歩きまわり
やっとの思いでたどり着いたのは
灯のない空き家だった

そこには正体不明の
悲哀と失望が口を開けて
うめくように語り合っていたが
私はもう
その声に関心もなく聞く力もなかった

そうして長くその家で
床に臥した私の胸を
そっと見舞ってくれたのは
小さな涙の泉だった

その泉にはいつしか
柔らかい陽光ひかり
射していた

失 望


心の深い苦しみを
自分一人では支えきれず
この人に
この人ならばと口を開けば
そのために
なおいっそうの苦しみを
増すことのある人の世よ

気負い


耐えられないほど痛む心を
支えるために
哀しい思いを覆うために
私はだいぶ気負っている

力と自信の他は
心に何もないかのようにしているから
友人は
そんな私を強いという

しかし私は知っている
そうするのは私に
その他には自分を支える力が
無いからだと
そうしないと
自分がたちまち崩れてしまうからだと

日暮れの街


空は一面に顔を曇らせ
風は震えている
まるで私の心のように

行きずりの見知らぬ人の
顔と声が
幾つも幾つも事も無げに
通りすぎていく

空はいっそう顔をしかめ
風はとうとう泣き出した

私は急いで
彼らを胸に抱きとめる
まるで痛みの中の家族のように

空と大地


人の胸に降り積もる疑問と
嵩を増す愁いに
空は答えない
大地も答えない

すべてを知り尽くし
窮め尽くした故の沈黙だろうか
それとも
時を調べ
時を選んでいるのだろうか

重くなった胸が吐いた
白い息が消えない内に
その目が空も大地も見なくなって
闇を抱いてさまよう前に
求めた答えがほしいと願う身に

さらに空は高く
大地は強固だ
そして奥深い

花のまなざし


花が私を呼びとめて
語り出した

慈愛のような
懇願のような
忠告のような
眼差しで
私の心の奥に淀んだ
迷いと疼きを見透すように
私を見つめて

生きることの忍耐を
置かれた場所で
静かに耐えることの
厳しさと美しさを
それを全うすることの
辛さと強さを

花が
私に向かって語り出した

谷の道


この谷を過ぎれば
広い地があり
陽の射す場所に出れるという

しかし今
この谷の道は
もう歩けないと思えるほど
ひどい道
一筋の光も射してこない
永久に続くと思える湿った道と
暗い藪だけ

幾度も倒れ
幾度も立ち上がって
苦痛と悲愁に耐えに耐えて
私は歩いて行く

この谷の先にある
陽の射す場所に行くために
輝く明日の太陽を見るために


空を翔けていく
あの鳥は
何の恐れも痛みも知らない身なのか
その目に見たもの
手に触れ口にしたものの中に
嫌なものは一つもなかったのだろうか

それとも皆
その小さな胸に果敢に納めているのだろうか

楽しく歌いながら
大空に翼を預けて飛ぶ鳥の
何という明るさ
軽やかさ しなやかさ

未だ
受けたささいな傷をいじくって
低地の一点にうずくまる
私の胸の
はるか上を翔けていく

体 験


抱えているガラスの小瓶は
かなりひび割れているようなのです

こわごわ触れれば
人と関わることを恐れる思いが
ツーンとわびしい音をたてる

人との良い関係が壊れてしまった時に
心を突き刺したあの針の先のように
一瞬光って

あなたも私も大切なので
互いを美しく信じて歩む
肩のぬくもりを
そのままにしておきたくて
私は途中からそっと人を離れる

誰にも見えないガラスの小瓶は
かなりひび割れているようなのです

濁 流


家々の隅から
巷の路地から
草花の陰からあふれ出した
埋もれて変色した
弱い者たちの涙を引き取って
川が流れて行く

住み慣れた地から強引に
連れ去られて
狭い低地に運ばれ
手足を椀ぎ取られた
木々の裸体を載せて
その絶望にむせぶ肩を
撫でながら
川が流れて行く

行き場のない沢山の
破れた心臓と
潰れた声帯を拾い集めて
荒い息を吐きながら
川が流れて行く

幾千の泥に埋もれた
苦悶の残骸と搾り汁を
みな引き受けて
川が流れて行く

冬の風


鉛色の背を丸めて
黙りこんでいる冬空
その下を風が走って行く

人の世の非情に怒りをぶつけて
自分を傷つけてしまった者を
いとおしむように近寄って
風がしきりに声をかけている

自暴自棄になって
凍る大地に足を投げ出す者の
沈む首に
白いマフラーを
そっと巻いてやりながら

それは風が身につけていた
たった一つの防寒具

さあ靴を履きなさい
立って歩きなさい
そうして早く
灯のある場所を探しなさい
急いで 急いで

風は先を急ぐ身なのに
幾度も戻って来ては
懸命に呼びかけている

咳こみながら
身を震わせ
傷めた喉をかばいもしないで
声をふりしぼって
風が叫びに叫んでいる

挫 折


何もかも
空しく思える時がある
すべてのことが
煩わしくなることがある
何も言わず
何もしない
それが一番価値あることに
思えてしまう時がある

私の心が人々の中から浮き上がって
重さを増していく時に

風の涙


風は怒って木を打たなかった
枝を揺さぶることもしなかった
ただ
葉の中に顔をうずめて
むせび泣いた

慈しんだものに踏みつけられ
きれいな手の中にあった
棘に刺された痛みのために

鳥が来て
慰めの歌をうたったが
風は身を起こすことも
振り向くこともできずに
泣き続けた

雨が翼を広げて
木の枝に降り立ち
むせび泣く風を
そっと抱きしめると
風の涙が
静かに舞いながら落ちて
萎れた小さな草花に
生命を注いだ

嫌なものをちょっと


不完全はイイが
不健全はイヤだ

不足はイイが
不純はイヤだ

冷静はイイが
冷淡はイヤだ

失敗はイイが
失礼はイヤだ

特異はイイが
奇異はイヤだ

低調はイイが
低俗はイヤだ

それから
ギモンはイイが
ギゼンはイヤだ

言葉は似てても別のもの
私がひどくイヤなもの

真友に


呼びかければ
空が灰色の時も
私の目には見えて来る
真っ白な雲の中に居る友

私が人の世を歩くのが下手で
足をくじいてしまうことを
よく知っている私の友よ

人の笑顔について行ったら
その先で惨い目に遭ったあれ以来もっと
人の世をよく歩けなくなったから
警戒の眼鏡をかけるようにしてるけど
どうもしょっちゅうずり落ちるんです
(そういえばセールで買って来たんだった)

先日来
人の約束や善意もハーフだったり
クォータだったりするのを知って
困惑こまっていたら
「よくあることさ」ってチープな慰めを聞いて
余計心が空っぽになりました

雲の中の静かな瞳をした
優しい友よ
じっと聞いてくれてありがとう

もう仕事の時間になりました
またこの次までさようなら

憤 慨


知らないくせに
ほんとうのことは
何にも知らないくせに
聞こうとする
知ろうとする
真心も持たないくせに
なぜ勝手なことを
言いふらしてまわるのです
人の気持も考えないで

内と外


色あせてごつごつしていて
外見も悪いのに
皮をむいたら
何と
美しい色で
良い香りがする
おいしいフルーツと・・・

きれいな素振りで
立派に見えるのに
皮をむけば
何と
ひどい色で
いやな香りがして
腐った味のする人間と・・・

世にさまざまの
奇妙な相違と
不思議な類似と・・・

キューリ


噛じるキューリよ
おゆるしください

体のためでも
舌のためでもなく
ただ胸のにがさを
なだめるために

涙をふりかけ
噛じるキューリよ
私の非礼をおゆるし下さい
腹に着くまで忍んで下さい

山びこ


山びこさん
あなたは人とは違って
私の叫びに
そのまま答えてくれますね

 ヒドーイ

ヒドーイ

 ズルイゾー

ズルイゾー


ありがとう山びこさん
人の里に降りてくるのは
無理ですか

偽 善


くっさいうんちは
きれいだな
本ものだから
きれいだな
ありのまんまで
きれいだな

善人面は
きたないな
にせ物だから
きたないな

黒い腹を
覆っているから
くっさいな

おっと失礼
これはほんのいたずらことば
フンと嘲笑わらって
洗い流して下さい

渇 望


愛ならば
本物がほしい
たとえひとつまみでも

希望ならば
芯がほしい
たとえ細くとも

力ならば
手ごたえがほしい
たとえひとときでも

光ならば
透明さがほしい
たとえ一筋でも


心の寒がり屋さん
一緒に凍える手を
こすり合いましょうか

あこがれ


美しい心にあこがれる
がむしゃらに
美しい心にあこがれる

あまりに醜い人の心に
触れた時に
あまりに汚れた人の世を
見た時に
何がなんでも
とにかくどこかで
美しい心に出会いたいと
無茶苦茶に願う

たとえわずかでも
人の世に
人の心に美しいものを
見つけたいと

そうしなければ耐えられないと
狂おしいばかりに願う

落 葉


心に積もった人の悲しみのように
幾重にも重なって
色褪せた落葉が
雨上がりの庭に濡れていた

長く痛みに耐えていて
誰かにわずかな慰めをもらい
それを抱きしめていたような
うるんだ目をして
暮秋の内気な陽を
見つめていた

やっと
悲しみの共有を得た
私の心から
悲しみが一ひら一ひら散っていった
雨上がりの庭に
積もった落葉の上に

切 望


心が通じる人に
心が通じる人に
今 会いたい
会って
心の全部を話したい

中 傷


花よ私に教えて下さい
ほんとうに美しいものは
何でしょうか
着飾った花嫁でしょうか
きらめく宝石でしょうか
ドラマの中の愛し合う
人間の姿でしょうか
それとも
誰に何を言われても
黙っている花よ
やっぱりあなたでしょうか


いつもそこに
天の目があるその下で
生きる喜びと
厳しさと
安らぎと・・・

慰 め


悲しんでいる人のために
人間のできることは
ほんのわずかだ

しかしそのわずかなものが
人を深い淵から救い出す

理由(わけ)


花が美しいのは
口や目を持たないから

自分の色 形 大きさに
対して
何一つ不平を言わず
自分を他と比べることをしないで

どんな場所にあっても
そこにただ
あるがままの姿で
微笑んでいるから

創造主の愛の手に信頼して
満ち足りているから
かも知れない

Never mind!


「どこまで人は信じることが
 できるでしょうか」

そんな難しい質問は
私に出さないで下さい
いつも満点を取った気分でいて
失敗している私に

「人を信じてしまう危険と
 人を警戒してしまう寂寥と」
どっちが重いか
利害の計りか価値の天びんに
聞いてみて下さい

それでもわからなかったら
幸福の審判の所に行ってみては
いかがでしょうか
そんなことはめんどうだと思うんだったら
何があっても
あれこれ考えたりしないことですね
Never mind!

課 題


今の世の中政治が悪い
社会が悪い
あれも悪いしこれも悪い
(ホントウニソウ・・・ヒドイモンダ)
しかし自分の目の前の山に
そういう理屈は通用しないし
山はそんな言い分では動かない

政治が悪くても
社会が悪くても
何が悪くても
目の前の山は自分の足で
越えていかなくてはならない
人にはいつも切実な自分の課題がある
どんな世にあっても
確かに生きてゆくための


人より先に
その頂上に着いたと言って
慢心するのはどうだろう

世界には高い山が沢山ある

最も高い山の上にも
無限に高い空がある

存 在


小さな川の中に
小さな石ころが転がり
小さな水草が生え
小さな虫や魚が泳いでいる

それはとても小さい川でも
その下流は
大河に繋がっていて
その大河は大海に繋がり
大海は大宇宙に広がっている

どんなちいさなものも
すべては大宇宙と関わりをもって
存在している

夜空に光る
星の光を見ている
ほんとうに小さな私も・・・

落葉樹


役目の終る時が来ると
その華やかな衣裳を
惜しげもなく
次々と脱ぎ捨てて行き

脱ぎ捨てた衣裳になお
穏やかな愛情を傾けて
夕陽を直視している

その振舞は
内側に真の誇りと使命を
握っているもの
天地と確約を済ませて
次の舞台を
見据えているものの姿

大空の下に胸をはって
すっきりと立っている

愛には


愛には理由わけは無いのです

愛には理由わけは要らないのです

愛には真実だけが要るのです

優しさ


時に人は
悲しすぎて
苦しすぎて心が破れて
うずくまってしまう

一言の慰めの言葉を聞けば
誰かの優しい眼差しに会えば
人はまた立ち上がることができる

欲しいですね人の優しさ
あげられるといいですね人の優しさ

努 力


下から上に向かっていく
人生はすばらしい

上をめざしてはい上がっていく
その苦しみと戦いのなかに
人間の輝きが見える

何度ずり落ちても
気をとりなおし
やりなおして
上をめざしてのぼっていく
その姿にこそ
人間の真の力が見える

たとえ生涯
頂上にたどり着くことは
できなくても

ほんとうの頂上は
天にあるのだから
天にたどり着く日まで
ひたすら励んでいけばいい

足 跡


他人のものがどんなによくても
他人のものでは生きられない
自分の足で
自分の道を歩かなくてはならない
たとえ他人よりも弱くても
乏しくても辛くても

自分の持てるものを精一杯活用して
良い足跡を残して行けば
その足跡は小さくても
光っていく

偏 見


そちら側からだけでなく
あなたの体を動かして
別の側からも見てください
ほら違うものが見えるでしょう

そのような人が


強い人が
弱い人を助けられるんじゃ
ないと思います
自分の弱さを知っている人が
弱い人の味方に立つ人だと
思います

賢い人が
迷っている人を教えられるんじゃ
ないと思います
自分も迷ったりして
自分の愚かさを知っている人が
できるんだと思います

豊かな人が
乏しい人に与えられるんじゃ
ないと思います
乏しいことのつらさを知っている人が
自分の物を
みんな差し出しても
他人を助けたいと
ほんとうに願う人だと
思います

頷 く


悲しみを通って来た人が
悲しんでいる人の心を
包むことができる
苦しみを背負って来た人が
苦しんでいる人のうめきを
支えることができる

ひどい目に会って
あまりの事に怒りに心がふるえたことのある人が
怒りをぶつけてしまう人の気持ちを受け止めて
静かに頷いてあげることが
できるのではないかと思います

見よう


空はいつもそこにある
だからいつも空を見よう

木々はしっかり立っている
だからしっかり木々を見よう

花は優しく咲いている
だから優しく花を見よう

小鳥は楽しく飛んでいる
だから楽しくそれを見よう
たとえ足元はぬかるみでも


私があなたの前で
悲しみの歌を歌ったのは
共鳴音が聞きたかったからです

その歌がどこで
なぜ作られたかを
すこし口にしたのは
それが主題ではなくて
あなたの心の
和音が欲しかっただけです

でも私の歌い方
まちがっていたかも知れません

この次からは
私が歌をまちがえても
咎めたりしないで聞いてくれる
自然の中だけで
歌うことにします


あるものは低く
あるものは高く伸び
あるものは横に広がり
あるものは地を這って伸びて行く
互いに触れ
互いに重なり合うようにして

誰も特に
他を羨望することも
疎むこともなく
無理に抱きかかえることも
退けることもなく
小さいものも大きいものも
それぞれが独自の仕方で
託された自分の生を
真摯に営んでいる

使命が終って去るものも
新しく生れて加わるものも
沈着にそれを為して
どの季節どの気候をも
謙虚に受け入れ
見事な調和を保ちながら
多くの命を育んで

森は幾歳月
弛むことも驕ることもなく
堂々と生きている

森は人間の割込みにも寛容だが
度が過ぎると顔をしかめ
身をよじり牙をむいて
怒りを顕わにする

互いの僅かな優劣の差に大騒ぎして
啀み合い挑み合う人間社会に
身震いし
欲望の達成に明け暮れて
束の間の生を粗末にしている
人間の姿を嘆くかのように
唸り声をあげることもあるが
たいていは静かに

威厳をもって立っている
力に満ちて生きている

噴 水


背伸びを繰り返す
白い水柱

終日努力しても
決められた身の丈以上には
高くなれず
同じ場所から動けない

それでも気ままに燃える
太陽から
幾つもの真っ赤な
熱線を吸い取って
腹に納め
涼風を産み出して
白く輝きながら

終日楽しい踊りを披露して
寄って来るものを
慰めている

花のように


風が右に吹けば
その身を
右に傾けて
右にあるものに微笑み

風が左に吹けば
左に傾いて
左にいるものに微笑む

風が頭をおさえつけたなら
下を向いたままで
下にいるものに微笑みかける

風に引きちぎられ
薮の中に落とされても
その薮の中にいるものに
微笑みを振る舞う

そんな花のような生き方を
私もしてみたい

小 鳥


澄み切った早朝あさの空気の中で
小鳥が元気にさえずっている

 すっきりと
 くっきりと

今日の日を生きようと
歌うように

濁ってしまった夕暮れの空気の中で
小鳥が重たげな声で鳴いている

 すっきりと
 くっきりと

ばかりは生きられなかったと
つぶやくように

それは小鳥の弱さのせいでしょうか
午後から曇った空のせいでしょうか
いっとき強すぎた風のせいでしょうか
それとも
いつだってきれいな空気を汚してしまう
人間のせいでしょうか

小鳥は答えず
薄闇の空へ飛び立っていった


苦しいことがあると
人の目は
闇の方向に傾いていく
そうしてしきりに
闇だけを見つめてしまう
すると闇はもっと深くなる

でもよく見れば
闇の中にも
小さな光は光っている
その光から目を離さないでいれば
必ず光の道が
見えて来る

光を捜して
光を追って
懸命に光に近づこう

決 心


こだわりをやめよう
何事もこだわってしまうと
わずらいが増して
心が重くなるだけだ

すべてのものは過ぎてゆく
すべてのものは変化する
昨日の風も
今日の雨も
私のこだわりなどには
無関心のまま

良くても悪くても
こだわることをやめて
とにかく明日に向かおう

青い空


青い空の中を
行儀悪く歩き回る
雲の群れ
ひどく散らかして・・・

青い空は
全然気にしないのだろうか
顔もしかめないで
限りなく静かに
限りなく大きく胸を広げて
笑っている

希 望


気がついた所で直せばいい
できることから
やればいい
自分の分を果たせばいい
どんな時にも上を見上げて

つぶやき


人を信じたために
人の心を大切にしようとしたために
傷を負うことになるんだから
やり切れないなあって溜息をついたら
「気にシナイ気にシナイ」って
小鳥が歌ってくれました

そうだよなあ
気にするから辛いんだよなあって
つぶやいたら
「顔をあげてこっちを見てごらん
もっと上だ」と
白い雲が声を掛けてくれました

静かな場所に


人の集いの騒々しさに
人の言葉の虚しさに
密かに眉をひそめて
人の中から出てきた人と
黙って座っていたいですね

静かな場所に
豊かな自然の中に
しばらく座っていたいですね

内なる叫び


美しいものよ
美しいものよ
美しいものよ

私に来てください
私を匿ってください
私を掴まえてください

世の醜さに足をとられて
疵んだ私を厭わないで
急ぎ私のもとに来てください
どうか私を助けてください

誠実な人々


欠点がまるでない
何の落ち度もない
というのではないけれど
「人としての誠実さにおいて
決して相手を裏切らない」
そのように励む人々を
知っているので
私は人の世に絶望せずにすんでいる

しばしば心がくじけてしまう
人の世で
誠実な心ある人々との
触れ合いは
私の心を広くし
人の世を
いとしいものに
思わせてくれる

私の希望


私の希望は
何となく空に浮んでいる
雲ではなく

準備万端整えて
滑走路から飛び立ち
目的地を目指して
雲の上を飛び続ける
飛行機でありたい

それがあれば


小さな花を
そっと人に差し出す手

やさしい言葉を
一つ二つ人に与える口

それがあれば
人は人を生かす
大きな仕事ができる
弱く無力な者でも


友はシャボン玉の中に
住んでいる
人の手垢の届かない
空にかかった虹から生まれた
シャボン玉の中に住んでいる

友は
煩悩の帽子も
虚栄の衣服も
物欲の靴も
みんな捨ててしまって
シャボン玉の中に住んで
いつもきれいに輝いている

私も行きたい
あそこに・・・
でも無理だやっぱり・・・

友よ
ずっとそこに居て下さい
私が時々目を閉じて
それが見られるように

悲しみの時


悲しみを
見つめ過ぎてはいけません
悲しみと密談していてはいけません
もっと大きくなってしまいます

悲しみの時は
他のものを見ることです
他の場所に行くことです
他の声を聞くことです
急いでそれをすることです

できたら
他の人のために手足を
動かすと

悲しみが少し
和らぐかも知れません
わずかでも
こころが安まるかも知れません

価値観


不誠実な成功よりも
誠実な失敗のほうを
価値があると私は思っています

他人の善意や優しさを利用して
大きな仕事をした人よりも
大事な宝を守るような仕方で
人の心を大切にして
質素に生きている人の方を
私は偉大だと思います

生きる力


困難や
苦痛は
予想していると
ひどく弱ってしまいますが
実際に直面してみると
案外
戦う力が湧いてくる
のかも知れません
生きるために
生きてきたのですから
いくつも山をのり越えて

心痛む友に(トラウマ)


子供の心は柔らかくて
子供の頃の傷は
魂の奥底まで達していく
その傷が
人の成長と共に密かに育っていて
人の思考と言動に
つきまとう

もう過去の事だと
見くびっていても
その傷は
何かある度にすばやく飛び出して
反応する
その反応の仕方は多くの場合
ひどくやっかいだ
くりかえし人と事とを傷めつける

悲しいことに
人のその深い所の傷は
自分と自分の愛する者にさえ
悲惨な代償を
無意識のうちに求めてしまう

友よ
人知れず痛む淋しい友よ
早くその傷を癒す道を
求めて下さい

石になった綿の話


幾度も痛めつけられ
たたきつけられたその綿は
次第に石になった
石になって
路傍にうずくまった

通りかかった雨がふと気付いて
石にそっと触れたが
石は動じなかった

力不足を知った雨は密かに
星に話したが
星は瞳を閉じたまま
しばらく思案していた

ようやく決意して
瞳を開けた星は
光をいっぱい集めて
それを一晩中石の体に注ぎ続けた

その美しい光の力は
ついに石の体を持ち上げた
その体はふわりと浮かび
キラキラと輝いた

元に戻ったその綿は
固く心に誓った
今後どんなに痛めつけられても
決して石にはなるまいと
周りのものを暖めやわらげる
自分の使命を捨てまいと・・・

干 渉


必要以上に人に干渉することも
人から干渉されることも
私は好きではないです

愛というのは
相手をその人自身として
生かすために
自分のものを差し出すことであって
他人の城に踏み込むような
ことではないと思います

森に咲く花


森の中に
可憐な花が咲いていた
見とれる人も無いのに
美しい装いをして
草の葉の陰に
ひっそりと薫っていた

そうしてわずかな時を
喜び生きて
何のためらいも見せず
慎ましく散っていく

気負いも煩いもない
短い一生をやさしい微笑に
包んだまま終える時にも
そっと脱いだ美しいベールを
「震えている誰かに届けてあげて」と
風に頼んでいくような
穏やかな素振りを見せて

動 揺


人の世でひどい傷を受けると
心が乱れ
思いが分断してくる

人を嫌い
世を嫌い
人の世から逃げ出すことを
画策する思いと

焦がれるほど人を慕い
人のいたわりを求め
人との語らいを切望する思いと

そのどれも無意味なことだと
冷笑する思いと
あれこれ分かれて
どっちが本意か
自分でも解らなくなって
揺れてくる

弱って
歩けなくなる前に
外へ出て行って
青い空を見て来よう

空はいつも嫌がらないで
静かに私を迎えてくれる


人は得るために
心身を酷使し
得たものを管理するために
さらに労苦し疲労する
その疲労はしばしば
得た喜びよりも大きい

人は失うことによって弱り傷つき
その衰弱の回復のために
多くの時間を費やす
そうして
失うことの中に残った光を
見つけ出した時
人は心に力を得る

その力は
得たことにも失ったことにも
征服されない
生命そものの力だ

誤 解


誤解も人生の味の一つかもしれません
私たちは
誤解に基づく非難や冷笑に憤慨するけれど
よく考えると自分だって
人のことを誤解していることがあるでしょうし
人間は自分のことも全部は解らない
不完全なものだから
時々誤解が生じるのは
しかたがないことなのでしょう

友よ
「誤解される」のは
辛いことだけれども
あんまりこだわらないようにしましょう
天に対して
自分の心が責められなければ
人の誤解は
たいしたことではないと思いましょう

人生の味の一つと
思いましょう

空を歩いてみましょう


立ち止まってはならない
心の痛みの中に
話しこんではならない
心の疼きとあまり長く
そうしているとその先
道はどんどん狭くなり
ひどくなっていく

早くそこから立ち去って
急いで明るい空に行きましょう
空はいつも
すぐそこにあって
仰ぐ者を拒まず迎えてくれる

痛みの中にある時は
思い切って空を
歩いてみましょう
心が晴れるまで
なるたけ遠くの方へ高い方へと
歩いてみましょう


花は透き通っている

どんな目
どんな唇
どんな手に対しても
拒否もなく
妥協もなく
無理もなく

花はただ透き通ったまま
そこに存在している

陽と水と土が共同で仕立てあげた
特製の衣に身を包んで
素顔の光を放っている

花は自分の姿を全く意識しないまま
その美しさと強さの本質を
顕わにして

花は透き通っている

回 復


長い雨だった・・・
暗い日々だった・・・
辛い時だった・・・

(あゝ何とか耐えたなあと
 一人微かに息を吐く)

何日ぶりかの太陽も
私と同じ思いでいたに
ちがいない
その身についた湿気を
一気に吹き飛ばすように
ぶるっと身ぶるいしてから
全身をひろげて
ぐんぐんと前進を
はじめた

さあ私も
あの太陽に続こう


木というのは
上へ上へとのびるために
下へ下へと根をのばす

人の目に映るのは
たくましい幹と
大空をおよぐ枝と葉
他から受ける誉れと愛慕も
そこに集まる

土の中の仕事と苦闘は
ずっと隠れたまま
見えない所で続けられる
しかし
木のほんとうの姿は
根の姿

根が成し続ける
満身の力をこめた
偉大な仕事

出会い


その目のやさしい人
ことばの温かい人に
会った日は
大きなものを得た
時のように
心が満たされる
人生は美しく
よいものに思われる

毎日
そういう人に
会いたいなぁ

いや それよりも
自分も
そういう人になれるよう
励んでみよう

共 感


台風一過
優しい陽に付き添われて
私の涙が
泥にまみれた花びらの
伴侶になる

晴れ渡る空の下
互いに手を取り見つめ合う

コスモス


友と語って帰る道で
何だか胸が重くって
足を止めた私の目の前で
咲きならんだコスモスが
ふわっと風に揺れた

花の中から赤トンボが
そっと飛び立って
青い空に向った

星条旗に寄せて

  (二〇〇一年九月十一日の惨事)


アメリカンフラッグ
スター・スパングルド・バーナー

あなたの姿は
晴れやかな時も
打ちしおれる時も変わりなく
清楚で美しい

慈愛と気品を漂わせて
羽ばたく
大いなる翼

人々の喜びの日には
微笑をたたえて空高く舞い
人々の悲しみの日には
いち早く降りて来て
その翼の下に雛を匿う
アメリカに住む者はみな
そのかいなに寄りかかる

二〇〇一年九月十一日朝

あなたの体に
突如魔物が襲いかかった
そのあまりにひどい傷痕に
みんなが
ありったけの涙を流したから
あなたはひどく濡れて
ひどく震えて

瀕死の重傷を負った
うるわしい大鳥よ
確かな生命力を秘めた
清い翼よ

再びその翼をあげて
空高く舞い上がる日を
民はひたすら待ち望む

神の恵みを受けて
世の続く限り
どんな凶悪な暴風にも
怯むことなく
自由と正義の翼を広げて
アメリカの大空に翻り

その威厳に満ちた勇姿を輝かして
民を力づけよ

家 庭


家の中は
普通に片づいていて
十分な安らぎがあって
羽をのばせる気楽さがあっても
必要なルールは少しあって

時々けんかもできて
早く仲直りもできて
反省もして
普通にわがままが言えても
それぞれの仕事の分担や
ゆずり合いや我慢もあって
物は少な目にほどよくあって

誉めたり注意したり
話し合ったりふざけたりしながら
一緒に泣いたり笑ったりして
いつも支え合い励まし合って
どこよりもあったかくて
楽しい場所にしたいと思います

そのようにいつも
努力していきたいものだと思います

それだけで


地味で
はにかみ屋で
不器用な人でしたが
キラッと光るものを
内側に持っている人でした

何かあると唇を噛んだまま
澄んだ瞳をそっと
曇らす人でした

さりげなく
人への思いやりを示す人でした

それだけで私は
私の友が好きでした
もう早くに地上を去って行った人・・・

ポプラ


風に舞うポプラの葉は
私に
ありし日の父の姿を見せてくれる

父はいつも口を結んでいる人だった
父はいつも働いている人で
暇さえあれば本を手にしている人だった

ある時父が病気をして
病床の父はびっくりするほど
よく口を開いた
窓から庭をながめて

「ポプラはいい
 あの暖かい光はいい
 風はいい
 小鳥はいい
 時には病気もいい
 こんな美しいものを
 ゆっくり見せてくれるからな・・・」

独り言のように話している父の瞳は
普段と違って優しかった
その瞳の奥にキラキラするものが
光っていた

その光は
家中に柔らかく輝いて
家族の心を暖めた

私は強い父も好きだったが
弱った父はもっと好きだった

健康な父から私は
強さの輝きを学び
病気の父から私は
弱さの輝きを
学んだような気がしている

風にそよぐポプラの葉は
昔と同じ優しい陽に答えて
キラキラと
美しい思い出を話してくれる

美しい人


誠実な
優しい
しとやかな人でした
それでいてとても
ひたむきな人でした

人間としてもクリスチャンとしても
筋の通ったことを求める強さと
確かな品格を備えた人でした

東京のど真ん中に住んでいながら
香しい花を咲かせていました

私のようなものに
ひざまずくように仕えてくれましたが
ほんとうは
あらゆる面で逆であるべきことを思って
私はいつも身が縮むほど
もったいなく思っていました
でもそれが主にある本物の愛からだと
知っていたので
私は安心して感謝してその愛を
受けていました

三條さん
いばらの多い八十年の生涯を終えて
美しい国に旅立った
三條雅子よりこさん

天にいけばあなたに会えると思うと
私の目の前に
星が幾つも輝き出します

人の死が語るもの


人の死は
何と強いメッセージだろう
価値ある人生を送れ
生かされている日々を
大切にせよ! と
静かに 厳かに
熱く 鋭く
全身に語りかける

友人のこと

        (散文詩)

若いころの友人にY子という人がいた。彼女は私と居ると決まって「あなたは個性が強くていやだわ。でも私あなたが大好きなんだから困るわ。ほんとに。」等と勝手なことを言っていた。

K社という大企業のトップの娘で二人の母の間を行ったり来たりする穏やかでない生い立ちのY子と、とりたてて言うこと等ない田舎の家で育った私とどうして気の合う友人になったのか、あまり考えたこともなかったが、私は「個性の強いのはそっちのほうだ。」といつも思っていた。

でも二人の母のことを「あの女は」と言い、父親を「あの男は」と言って家族の悪口をまくしたてるY子の淋しい横顔を見ていると私は何も言えなかった。その表情には時おり涙を誘う痛みが見えた。

口が悪くて男まさりなY子と、口数が少なくて引っ込み思案な私との共通点はあまりないように見えたが、しかし、二人の似ている点といえば、何事も極めて単純な動機で始め、一旦始めると我を忘れて夢中になってしまう、そういう面かも知れなかった。

私たちは良い映画を見た後等は、それぞれが受けた感動をお互いに壊さないように、しばらく黙々と歩き続けて、感動の涙を星空以外のものに見られるのを疎むような思いでそっと、別々に星を仰いでいた。

Y子は特に価値あるものに触れたような時、べらべらと無意味なコメントを口にして得意がるような粗雑な性格ではなかった。口は悪かったが非常に繊細で、その複雑な生い立ちにもかかわらず単純で真っ直ぐな人だった。「単純バカ」と私の失敗をなじったが、それも実は、Y子自身のことでもあると、私は思っていた。

二人はそれぞれの人生を歩むことに忙しくなってから疎遠になってしまい、今は彼女の消息も知れないが、この頃、私はしきりにY子に会いたいと思う。周囲と必然に譲りすぎて個性を追い払って生きている自分に失望しているからかも知れないが、今、彼女はどうしているだろうか。彼女自身として幸福だろうか、否だろうか。どっちにしても私はあの貴重な友人だった人に会いたいと思う。

私の詩


「マミィのは詩じゃないね
 ただの文章だよ」と
詩を書く特別な才能を
天から授かっている娘は
痛いことをズバリ言う

「そうよね ほんとうだわ
 でも詩人でない人たちに
 理解わかる詩を書くのが
 マミィの分だから
 ま いいじゃない」と
私は苦しい言い訳をして苦笑う

「どうしたら上手な詩が書けるか
 教えてくれないかなぁ」と
私が本気で頼んでも
「そんなことは自分で考えれば」と
娘は取り合わない

二人でも三人でも
微かな共鳴をしてくれる人がいれば
何かの役に立つかもしれないと思って
私は私のつたない詩を書いている
心に生まれたものを書いている